環境リサーチはシックハウス症候群の原因物質の測定に早くから取り組んできました。また、美術館測定に関してはISO/IEC 17025の認定試験所として登録されています。
シックハウス症候群とは
気密性能の向上や化学物質を発散する建材・内装材の使用等により、新築・改築後の住宅やビルにおいて、化学物質による室内空気汚染等により、居住者の様々な体調不良が生じている状態が報告されています。症状が多様で、症状発生の仕組みをはじめ未解明な部分が多く、また様々な複合要因が考えられることから、このような症状を「シックハウス症候群」と呼んでいます。(厚生労働省報告書による)
その原因の一部は、内装材や塗料、接着剤等から発散するホルムアルデヒドやVOC(トルエン、キシレン等)と考えられています。これらの化学物質と健康被害の因果関係はまだ解明されていない部分も多くありますが、これらの濃度が高いところに長期間いた場合に健康に影響が出ることがあります。
主な対象物質は下記7項目となります
属性 | 物質名 | 解説 | 室内濃度指針値 |
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アルデヒド類 | ホルムアルデヒド | 無色で刺激臭があり、常温では気体。殺菌、防腐剤として使われる。建材では合板、パーティクルボード、家具、壁紙用の接着剤などから放散。室内の温度や湿度が高いほど放散が多くなる。目、鼻、喉などに対する刺激、高濃度で不快感、流涙、くしゃみ、咳、吐き気などを起こす。 | 100µg/m³ (0.08ppm) |
アセトアルデヒド | 刺激臭のある無色の液体、沸点が20.2℃で高揮発性。合成樹脂、合成ゴムなどの様々な化学製品に使用。タバコの煙にも含まれ、お酒を飲んだ人間の体内でも生成され、二日酔いの原因になる。人の皮膚や粘膜(目、鼻、気道)に強い刺激を与える。 | 48µg/m³ (0.03ppm) |
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VOC | トルエン | 無色で芳香を持ち、常温では可燃性の液体。揮発性が高く、内装剤の施工用接着剤や塗料、家具の接着剤などから室内に放散する。高濃度で喉や目に刺激、長期に浴びた場合、頭痛、疲労、脱力感などの神経症状や不整脈を起こす。 | 260µg/m³ (0.07ppm) |
キシレン | 無色で芳香を持ち、常温では可燃性の液体。接着剤や塗料の溶剤、希釈剤として通常は他の溶剤と混合して用いられる。揮発性が高く、高濃度では喉や目に刺激があり、長期暴露で頭痛、めまい、意識低下などを引き起こす。 | 200µg/m³ (0.05ppm) 870µg/m³* (0.20ppm)* |
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エチルベンゼン | 無色で特有の芳香を持ち、常温では可燃性の液体。接着剤や塗料の溶剤、希釈剤として通常は他の溶剤と混合して用いられる。高濃度の短期暴露では喉や目に刺激があり、数千ppmになるとめまいや意識低下を起こす。 | 3800µg/m³ (0.88ppm) |
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スチレン | 石油臭を有し、常温では基本的に無色透明な液体。灯油・塗料などの溶剤に使用。皮膚に直接触れた場合、皮膚の乾燥などが生じる。 | 220µg/m³ (0.05ppm) |
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パラジクロロベンゼン | 無色または黄色を帯びた特徴的な臭気。ポリスチレン樹脂、合成ゴム、合成樹脂塗料、断熱材、浴室ユニット、家具などから室内に放散。60ppbで臭気を感じ始め、高濃度の場合は目や鼻への刺激、眠気、脱力感、めまいを引き起こす。 | 240µg/m³ (0.04ppm) |
シックハウスのサンプリング方法
『アクティブサンプリング法(以下アクティブ法)』または『パッシブサンプリング法(以下パッシブ法)』とはシックハウスのサンプリング方法の一つであり、現在当社が主に行っているサンプリング方法です。標準的なサンプリングを行う場合は『アクティブ法』『パッシブ法』のどちらの方法を用いてもサンプリング実施前に30分間の換気を行った後、5時間以上扉や窓等を閉鎖して室内の空気を安定させます。
方法の選定に関しては仕様書等によって『アクティブ法』か『パッシブ法』かの指定がある場合にはそれに従いますが、それがない場合には以下のような特徴を考慮してサンプリング方法を選定します。
定量の吸引ポンプを用いて動力により空気を吸引してサンプラーに試料空気を導き化学物質を吸着させる方法です。定量ポンプを用いることで、精度が高く、短時間での化学物質のサンプリングが可能になります。
対象室の日中の最高濃度を求めることを目的とし、室内空気中の化学物質濃度を測定する際の標準法として定められています。基本的に最も濃度が高くなると推定される午後2時~3時付近の時間帯でサンプリングを行います。
アクティブ法のタイムスケジュールは以下になります
吸引ポンプなどは用いずに、部屋の中にサンプラーを設置して自然に化学物質を吸着させる方法です。原理は、物質が高濃度から低濃度へ移動し均一になろうとする拡散という性質を利用しています。
サンプラー設置時間内における平均濃度を求めることを目的としており、アクティブ法との相関性も認められています。
通常は1日の間の濃度の変動を考慮して24時間のサンプリングを行いますが、場合によっては24時間未満の時間でのサンプリングも行われます。24時間未満の時間で行う場合には基本的に最も濃度が高くなると推定される午後2時~3時を跨ぐようにサンプリング時間を設定します。
パッシブ法のタイムスケジュールは以下になります
Q&A
μg/㎥は重量表示(空気1㎥中に対象物質が何マイクログラムあるかを表す)
ppmは体積比(100万分の1を表す。本来体積は温度で変化するため、指針値のμg/㎥→ppmの換算は25℃の場合)
美術館・博物館測定
美術館・博物館の分析方法としては『精密分析』と『検知管』の2種類があります。
精密測定は対象物質のみの濃度算出を行うのに対して、検知管は対象物質の類似物質等を含む物質を検知してしまいそれらすべてが対象物質とした場合の濃度を算出します。
美術館・博物館の環境測定を行う目的
展示・収蔵環境では、空気の汚染による資料の劣化が問題となります。
劣化の要因となる汚染物質には様々ありますが、それら汚染物質の少ない空気環境を維持することが必要です。博物館や美術館では、コンクリートや内装材から発生するアルカリ性物質および酸性物質により、絵画や美術工芸品などの貴重な文化財が変質や劣化を起こすことが問題となっています。
独立行政法人国立文化財機構では、文化財公開施設の室内汚染物質測定の項目として、アンモニア、ギ酸、酢酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの5物質を挙げています。
ISO/IEC 17025 の認定試験所(美術館測定)
当社の技術センターは、ISO/IEC 17025 の認定試験所(美術館測定において)です。
ISO/IEC 17025はスイスに本部を置く国際標準化機構によって制定された国際標準規格です。
ISO 9001は技術的要求事項がないので技術能力に対する審査は行われませんが、ISO/IEC 17025は特別に開発された基準及び手順があり、それによって試験、校正、測定結果、検査サービスが正確で信頼できることを確保しています。
空気質の望ましい値
汚染物質 | 劣化影響 |
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アンモニア | 油画材料の亜麻仁油を変色させる |
酢酸・ギ酸 | 日本画などの顔料や工芸品の鉛と反応し、酢酸鉛・ギ酸鉛となる |
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド | 膠を硬化させる |
二酸化硫黄 | 金属を腐食させる |
窒素酸化物 | 有機物を脆くさせる、染料を変退色させる、金属を腐食させる |
オゾン | 有機物を脆くさせる |
二酸化炭素 | 弱酸として働き、絵具等を変色させる |
硫化水素 | 金属と反応して硫化物を生成する |
塩化水素 | 塩化物を生成し金属を腐食させる |
汚染物質 | 室内推奨値 |
---|---|
アンモニア | 30ppb(22㎍/㎥)以下 |
酢酸 | 170ppb(430㎍/㎥)以下 |
ギ酸 | 10ppb(19㎍/㎥)以下 |
ホルムアルデヒド | 80ppb(100㎍/㎥)以下 |
アセトアルデヒド | 30ppb(48㎍/㎥)以下 |
出典:独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所(平成31年3月改訂版)
「美術館・博物館のための空気清浄化の手引き」
サンプリング・分析結果
実際に測定する場合、項目によって測定するサンプラーが異なります。
分析機器の紹介
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イオンクロマトグラフ
イオンクロマトグラフはイオン種成分の分離、測定に特化した液体クロマトグラフです。
- 測定対象物質
- アンモニア、酢酸、ギ酸
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高速液体クロマトグラフ
移動相に液体を用いるクロマトグラフを液体クロマトグラフといい、その中でも、高圧送液ポンプにて分離を高速で行うのが高速液体クロマトグラフ(HPLC)です。
多成分を一度に分析が可能で、移動相となる液体に溶解するものであれば幅広い試料に利用できます。- 測定対象物質
- ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド