イオンクロマトグラフ
IC Ion Chromatography
イオンクロマトグラフィーはイオン種成分の分離、測定に特化した液体クロマトグラフィーです。
■イオンクロマトグラフィー分析の原理
イオンクロマトグラフィーの基本的な分析原理は液体クロマトグラフィーと同じですが(参照:クロマトグラフィー分析法の原理)、特徴的な違いはカラムと検出器です。
イオンクロマトグラフィーでは一般的にイオン交換分離カラムが用いられます。
このカラムには充填剤と呼ばれる微細な粒子(一般に基材は樹脂製で、大きさは3~10μm)が封入されています。
図1:イオン交換分離カラムの概念図
また、この充填剤の表面には陽イオン交換基と陰イオン交換基がつけられています。
陽イオン交換基は負に荷電した分子(陰イオン)の分離に、陰イオン交換基は正に荷電した分子(陽イオン)の分離に用いられます。
下記に陰イオン交換分離についての例を示します(図2参照)。
図2:陰イオン交換分離の例
イオンの価数が大きいほど、また、イオン半径が大きいほどイオン交換基との吸着が強くなります。
疎水性のイオンでは疎水性基材との吸着が起こるため、物質ごとに充填剤との吸着に強弱が発生します。
その結果、分離に時間差が生じイオン成分の分離が可能となります。
他の分離方法としては、解離度や疎水性度の違いにより分離を行うイオン排除分離、移動相に目的イオンとイオン対を作る試薬(イオンペア試薬といい、疎水性を有する)を添加し目的成分とイオンペアを形成させ疎水性化合物として分離を行うイオン対分離などがあります。
また、検出器で代表的なものは電気伝導度検出器です。
カラムを通過して出てきた溶液(溶媒+分離された試料液)は電気伝導度を測定することで検出されます(イオン濃度と電気の流れやすさは比例するため、「電気が流れやすい」=「イオン濃度が高い」ということになります)。
電気伝導度検出器以外では、溶液の吸光度を測定するUV/VIS検出器(UV:紫外線、VIS:可視光線)、電極表面で起こる酸化・還元の際に流れる電気量を測定する電気化学検出器などがあります。
■分析例
□美術館の空気の分析
博物館や美術館では、コンクリートや内装材から発生するアルカリ性物質および酸性物質により、絵画や美術工芸品などの貴重な文化財が変質や劣化を起こすことが問題となっています。
独立行政法人国立文化財機構では、文化財公開施設の室内汚染物質測定の項目として、アンモニア、ギ酸、酢酸、ホルムアルデヒド(※)、アセトアルデヒド(※)の5物質を挙げています。
イオンクロマトグラフでは対象物質のうち、アンモニア、ギ酸、酢酸について分析が可能です。
(※ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドは高速液体クロマトグラフにて分析できます。)
ある美術館の展示室内の空気をサンプリングし、イオンクロマトグラフにて分析した結果です。
測定された空気中にギ酸と酢酸が含まれていることがわかります。